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Tax Fantasista

そんなに役に立たないアメリカの税務・会計についてちょこっとLOVE

もしもモーニング娘。がアメリカのスタートアップだったら

IPOやM&Aで創業者利益を得るということは、起業家やスタートアップにとって1つの大きなインセンティブでありモチベーションでもありますよね。

しかし、莫大な利益を手にするということは、必ず多額の税金がつきまといます。完全に税金をゼロにすることは不可能ですが、認識するタイミングひとつで大きな差が出ます。

 

もしもモーニング娘。がシリコンバレーのStart-upで、初期メンバー5人がco-founderだったとして、彼女達が卒業した時を株の売却と考えたら、彼女達はいつ、いくらの税金を払うのだろうか?って朝一のトイレしながらふと頭に浮かんできて、なかなか面白いと思ったので実際に、やってみた。

 

てかモーニング娘。初期メンバーって誰がいたっけ?

()内は脱退した日付

福田明日香(1X99年4月18日)
石黒彩(2X00年1月7日)
中澤裕子(2X01年4月15日)
安部なつみ(2X04年1月25日)
飯田香織(2X05年4月14日)

ちょー懐かしいでしょ?ちなみに僕は福田明日香のファンでした。てか20代前半以下は絶対わかりませんよね。

会社設立

ってことで初期メンバー5人で1X97年9月7日にモーニング娘。を結成しました。アドバイザーにはつんく♂氏が就任。co-founder(初期メンバー)ということで5人は普通株式を1人100,000株ずつ、つんく♂にもアドバイザー契約の報酬として$100,000株ずつ付与することにしました。その時の株価は一株あたり$0.01でした。

取得条件付普通株式(Restricted Stock)

ここでアドバイザーのつんく♂氏が、

『株式について、ちょっと考えよう。これからこの5人で力を合わせてがんばっていく上で、途中で誰かがBye Bye ありがとうさあようなら~じゃ困るから3年以内に会社を辞めると取得価格で会社が買い戻す事ができる取得条項付株式にしよう。』

 という提案をしました。

取得条項付株式とは一般的に、Vesting Period(権利確定期間)などの条件をつけ、株主としての権限は持ちつつも、ある一定の期に達する前に株主が会社から離脱した場合は、会社が強制的にその株式を買い戻す権利があるというなんかしらの条件付の株式の事です。

創業メンバーとして株を受け取ってスタートしたはいいものの、方向性の違いとかで離脱することがスタートアップの世界では良くあるみたいです。もし初期段階で抜けたメンバーが、そのまま株式を保有できたとすると、他の創業メンバーががんばって上場した時に、その辞めたメンバーも巨額の富を得ることができるのは不公平ですよね。

このような事を防ぐために、ある程度のコミットメントした者だけが株式を取得できるように、株式に関する取り決めを行うことは非常に重要です。 

Section 83(a)

メンバーはつんく♂に同意し、会社の定款に株式の取り決めに関する条項を追加して株式を全員に付与しました。

さてこの株式はいつ、どーやって課税されるのでしょうか?

Internal Revenue Codeと呼ばれるアメリカの税法にある Section 83(a)という条項を見てみましょう。

Section 83(a)

原則としてサービスの報酬として所有権に条件のついている物品または株式を享受した場合は、その条件を満たし、所有権が完全に移った時に課税所得として認識する。また、その認識する所得は、その時の時価と取得価格の差額である。

モーニング娘。の契約によると、3年たったら所有権をゲットできるという条件がありますので、3年後、すなわち2X00年9月7日の時点の時価と取得価格の差額を所得として認識するということになります。

Section 83(b) election ←最重要ポイント

Section 83(a) の原則のすぐ下にSection 83(b) election という条項があり、それに基づいて申請を行うことで、原則を覆し、条件に関係なく、株式が付与された時点で所得を認識することができるのです。その時に認識する所得も同じく時価と取得価格の差額となります。この選択をすると、Section  83(a)の原則を破棄することになるので、3年後の権利確定の年には、何も認識せず、株式売却時にキャピタルゲインとして認識します。(後で説明)

しかし、Section 83(a)の原則によると3年後に所得を認識できるのに、あえてこのSection 83(b) electionを選択して、前倒しで所得を認識するのになんのメリットがあるのでしょうか?

株式が付与されてから30日以内にIRSに報告

モーニング娘。のメンバーはこのSection 83(b) electionの事を知らされて、どうするべきか考えてました。当時センターの安倍なつみ、ジョンソンこと飯田香織、僕の押しメン福田明日香の3人は、『きっと3年後には自分達はスターになっている!』という想いが強く、3年後のモーニング娘。の企業価値が高騰し株の時価も相当上がっていることを想定してSection 83(b) electionをすることにしました。

ここで注意が必要なのは、Section 83(b) electionの申請が出来るのは、その株式が付与されてから30日以内です。これは取り消しが不可能ですし、30日を過ぎたら申請することが出来ません。

株式の付与から30日以内に、所定の用紙をIRSに提出します。

中澤裕子と石黒彩の二人は『まだ先のことはわかんないしー、売れなかったら今税金払って払い損になっちゃうから、3年後でいいっしょ!』ってことでSection 83(b) electionの選択をしませんでした。

初年度のメンバーの確定申告

 そんなこんなで1X97年はモーニングコーヒーでデビューを飾りオリコン最高順位6位と上々の滑り出しとなりました。Section 83(b) electionを選択した安倍なつみ、飯田香織、福田明日香の3人は株式を受け取ったその年に時価と取得価格の差額を所得として認識します。創業者メンバーとして株を受け取っただけで、取得価格は無料なので、時価の$1,000(100,000×$0.01)を収入として申告しました。

1X97年の税率を30%とするとこの株式の取得による税金は$300 ($1,000×30%)になります。

中澤裕子、石黒彩の2人は、権利が確定する3年後の2X00年9月まで株式に関する所得を認識しなくて良いので1X97年の税金は発生しません。

このように同じだけ所得を受け取っても税務上の選択やタイミングをずらすことによって税額は全く違う結果になることもあります。

初年度のメンバーの株式に関する税金は以下の通りです。

中澤裕子($300)
飯田香織($300)
福田明日香($300)
安倍なつみ($0)
石黒彩($0)

福田明日香と石黒彩の卒業

1X98年には保田圭、矢口真里、市井紗耶香の新メンバーも加わり、抱いてHOLD ON ME!で初のオリコン1位を獲得しました。しかし、1999年4月18日に僕の推し面の福田明日香がまさかの卒業。。。

さて、初の離脱者が出ました。取得条項付株式のことを覚えてますか?

『3年以内に会社を辞めたら取得価格で会社が買い戻す。』

この条件によると2X00年9月7日で3年になるので、福田明日香の株は会社で全て買い戻すことになりました。買い戻すといっても無料で付与されたのでここではただ返却するということです。

福田明日香といえば、Section 83(b) electionを選択していて、株式の時価を前倒しで所得として認識していたので、$300の税金を1X97年に払っています。しかし、この税金は返って来ません。

Section 83(b)Electionの申請をすると、権利が確定する前に離脱しても支払った税金が返って来ないというリスクも負うということです。

続いて2X00年1月7日に石黒彩が卒業。彼女も3年以内の離脱なので福田明日香同様に、株式の条件通りに会社が株式を買い戻しました。しかし、彼女はSection 83(b) electionを選択してなかったので、原則どおり、条件を満たす3年後に所得となるはずだったのですが、3年経つ前に辞めたので、結果として何も税金を払わなかったということになります。

同じ時期に卒業した福田明日香と石黒彩を比べて見てもわかるように、

条件を満たす前に離脱するとSection 83(b) electionをした方が税金の払い損となってしまいます。

2人とももうちょっとがんばって残ってればウハウハだったのに~。

大ヒット曲のオンパレード!!そして迎えた2X00年9月7日・・・

福田明日香の卒業後、1X99年8月22日にゴマキこと後藤真希が加入してからのモーニング娘。の勢いはやばかったですよね。

1X99年9月9日LOVEマシーン、オリコン1位
2X00年1月26日恋のダンスサイト、オリコン2位
2X00年4月16日新メンバー加入(省略w)
2X00年5月17日ハッピーサマーウェディング、オリコン1位
2X00年9月6日I WISH、オリコン1位

これを見て分かる通りものすごい勢いでモーニング娘。の企業価値が高騰していき、2X00年9月7日時点での株価は一株あたり$10まで成長しました。(未公開株ですが評価方法はここでは無視)

1997年9月7日のデビューから丸3年が経ち2X00年9月7日に株式の権利が完全にメンバーに移りました。

初期メンバーでこの時点で残ってるメンバーを確認しましょう。

安倍なつみ(Section 83(b)election 有り)
飯田香織(Section 83(b)election 有り)
中澤裕子(Section 83(b)election 無し

安倍なつみと飯田香織はSection 83(b) electionを申請して、1X97年の時点で所得を認識しているのでこの1X99年9月7日は何にも関係なく株式を売却するまで税金は発生しません。

中澤裕子オワタ\(^o^)/

中澤裕子はSection 83(b) electionの申請をしなかったので、Section 83(a)の原則が適応されます。

Section 83(a)をもう一度復習しましょう。

Section 83(a)

原則としてサービスの報酬として所有権に条件のついている物品または株式を享受した場合は、その条件を満たし、所有権が完全に移った時に課税所得として認識する。また、その認識する所得は、その時の時価と取得価格の差額である。

 要するに、2X00年9月7日に株式の付与から3年が経ち、Vesting Periodが過ぎ、完全な所有権が中澤裕子に移ったので、そこで時価と取得価額の差額を所得として認識しなけいといけません。

取得価額は無料なので、時価を所得として認識することになります。

ってことはー、100,000株で一株あたりの株価が$10だから~。。。

えっ!?

そうです。そーなんです。うそじゃないです。本当です。

$10×100,000 = $1,000,000を所得として認識しなければならないのです。

税率が30%だったとして、$300,000が税金として持っていかれるのです!!!!

しかも、この状態何がまずいか分かりますか?

まだ株を売ってない含み益にも関わらず、この年に税金は払わないといけないのです。

キャッシュがないのに税金が出て行くまじで最悪の状態です。
(この状態に陥ると、税金を払うためにしぶしぶ株を売らざるを得ないことになるケースも。。。)

(Section 83(b) Electionを申請しておけばこんなことにならなかったのに。。。)

2X00年時点でのメンバーの納税額を見てみましょう。

安倍なつみ($300)
飯田香織($300)
中澤裕子($300,000)
石黒彩【卒業】($0)
福田明日香【卒業】($300)

キャピタル・ゲインと通常所得

中澤裕子は、2X01年4月15日に晴れて株を売却し卒業することになりました。 

ここで問題になってくるのが、彼女の株式の保有期間です。

保有期間が1年を超えている株式の売却益はキャピタルゲインとして認識し、キャピタルゲインの税率は最高で20%(2014年現在)となってます。一方、保有期間が1年未満の株式の売却益は最高税率が39.6%の通常所得として認識されます。

(通常所得は累進課税となっているため必ずしも最高税率にはなりませんが、かなりの確率で20%は超えます。)

当然、税率の低いキャピタルゲインとして認識されるほうが良いですよね。

しかし、中澤裕子の場合、2X00年9月7日の取得条件を満たした日に保有期間が始まり、卒業した日の2X01年4月5日に株を売却したので保有期間は約7ヶ月と見なされ、1年未満のため売却益は通常所得として扱われます。

2X01年4月15日の株式の時価は$15でしたので、$15×100,000=$1,500,000を売却益として認識しますが、その分の$1,000,000については2X00年9月7日の時点で認識してますのでその差額分の$500,000について2X01年は通常所得税率で課税されます。この2X01年の税率を30%と仮定すると、$150,000の税金が持っていかれます。

中澤裕子が株式を売却した結果、トータル$1,500,000の創業者株式からの所得に対し、$450,000の税金を支払いました。

Section 83(b)electionを申請しておくもう一つのメリットとして、保有期間が株式を受け取った時からスタートするため、Vesting Periodを過ぎた時には保有期間が1年を超えてるので、いつ売ってもキャピタルゲイン税率の恩恵を受けれるということです。もし、中澤裕子がSection 83(b) electionを申請していたら、全く同じ日に株を売ったとしても、キャピタルゲインとして扱われるため、税率が20%になります。

安倍なつみ、飯田香織も卒業

安倍なつみと飯田香織も2X04年1月25日と2X05年1月30日にそれぞれ卒業しました。その時の株式の時価はどちらも$15ドルでした。

この二人はSection 83(b) Electionを選択していた二人です。

$15×100,000 = $1,500,000からSection 83(b) electionを申請した時に認識した所得の$1,000を差し引いた1,499,000を所得として認識しますが、保有期間が1年を過ぎてるのでキャピタルゲイン税率の20%で課税されます。

その結果。。。

およそ$300,000が税金となります。1X97年に支払った$300と合わせてトータルで$300,300の税金を払いました。

最終的にみんないくら払ったの?

最終的に初期メンバー(Co-founder)全員が卒業(株式を売却)しましたが、この創業者利益に対し、全員が支払った税金の結果はどうなってるでしょうか??

① 石黒彩($0)

石黒彩はSection 83(b) Electionを申請せずにVesting Periodを待たずして卒業していきました。結果、何も税金が発生しませんでした。もしかしたら3年以内に辞める可能性があることを自分で分かっていたのかも知れません。その場合、賢い選択だったと言えるかもしれませんね。

② 福田明日香
19X7年($300)

石黒彩とは反対に、Section 83(b) electionは申請したけど、3年経つ前に辞めていきました。結果として、$300の税金の払い損になってますけど、他の仲間とエグジットを目指してたわけで、Section 83(b) electionをしなかった中澤裕子の例を考えると、時価の低い設立当初に前倒しで所得を認識しておくのは、正しいです。

③ 安倍なつみ、飯田香織
1X97年($300)
2X00年($0)
2X04年、2X05年($300,000)

この二人は、成功モデルです。小額の税金を前倒しで払ってますが、結果として$300,000の税金の支払いを株式の売却まで遅らせる事ができ、なおかつキャピタルゲインの恩恵も受けています。もちろん個人のキャッシュフローの問題もあり、最初の株価次第のところもありますので一概には言えないですが、スタートアップをやるのであれば普通はSection 83(b) electionの申請をした方がと思います。

④ 中澤裕子($450,000)
1X97年($0)
2X00年($300,000)
2X01年($150,000)

安倍なつみらと真逆で売ってもない株の税金を払わないといけないだけでなく、キャピタルゲイン税率の恩恵も受けることができずに、約$150,000も多く税金を支払っています。

まとめ

いやー長々と書きました。でも言いたい事はひとつ。

Section 83(b) electionは申請すべき!!

メリット①:設立したての会社なんて基本的に価値なんてほぼないので、前倒しで安い税金を払っておく。後で後悔します。

メリット②:保有期間を早めにスタートさせることによって、比較的低税率であるキャピタルゲイン税率の恩恵を早めに受けれるようにする。

もちろん福田明日香のケースのように税金の払い損もありますが、設立して株もらって30日以内の時点で、『自分達の会社の価値上がる気しね~な~』っていう起業家は普通はいないと思います。株価が上がることを、想定しているのであれば、Section 83(b) electionをしておきましょう。

ずーっとここまで読んできて、内容は分からなくていいので、本気でアメリカで起業するんだったらSection 83(b) electionの存在だけでも覚えて帰ってください。

スタートアップの設立の際に、弁護士さんに挨拶代わりにSection 83(b) electionと言いましょう。そしてその時はモーニング娘。の初期メンバーを少しだけでいいので思い出してやってください。

 

 最後になりますが、モーニング娘。の例えは要らなかったと思います。

 

Mele Kalikimaka!!